さよならのあとで

3月1日の金曜日は大学病院で4ケ月ぶりの膵臓の精密検査です。
10年以上診てもらっていますが、いまのところは変化はありません。
ありがたいことです。
毎朝、隣の部屋の妻にお礼を言ってます。
そうです。
妻は隣の部屋にいるんです。

ヘンリー・スコット・ホランドの詩、「さよならのあとで」のとおりです。
発行人は、わずか24行にしかならない英語詩を日本語訳し、見事な本に仕上げ、大切な人を亡くした心にそっと寄り添ってくれます。

「さよならのあとで」

死はなんでもないものです。
私はただ となりの部屋にそっと移っただけ。

この言葉から始まります。
そして次の言葉で終わります。

私はしばしあなたを待っています。
どこかとても近いところで。
あの角を曲がったところで。
すべてよしです。
(原詩 All is well)

人は誰でも死別を経験します。
親しい人、ときには、自分の命を失っても守りたいと思うような人とさえ、別れます。
それは人生をいきていくうえで、一番つらい出来事です。
誰かの言葉や、匂いや、音や、光や、空気や、風や、すべてのことが、その人の不在を静かに告げます。
私はもう二度と立ち直れないのではないか。
何度も何度もそう、思います。
けれど、私たちは思い出すことができます。
いつも座っていた椅子、読んでいた本、履いていた靴、微笑み、声。
その人がどれだけ私のことを愛してくれていたのか。
ときには自分より大切な人を失って悲嘆にくれるとき、
その人がどれだけ私のことを愛してくれていたのか。
そのことに思いをはせたとき、人は再びゆっくり立ち上がれることができるのだと思います。
(『あとがきにかえて』から)



わが家で妻は2階に寝ていましたが、起きている間はいつもLDKにいました。
テレビを見て笑い、孫の動画を見て喜び、一人刺繍をしたり、僕とコーヒーを飲んだり。
でも、そのリビングから、となりの8畳の和室に移っただけなんです。
今も、庭に咲いた小花を飾った和室で微笑んでいます。
そして僕は妻のおかげで元気に過ごしています。

「お父さん、病気になったらあかんよ、苦しいんやよ。節制して元気に過ごさなあかんで」
妻は不摂生ではありませんでしたが、闘病の辛さ、苦しさを僕に身をもって示しました。
悪性腫瘍や虚血性心疾患になれば、僕も仕方ないとあきらめます。
でも生活習慣病だけは自己責任です。
子供たちに迷惑をかけることになるといつも言ってました。
僕は調子に乗るとお酒を飲みすぎたりして、妻によく注意されました。
たぶん、いま妻の一番の心配は、それだろうと思います。

朝は5時20分に起き、娘の朝食を用意し、送り出し、ラジオ体操したり、公園で朝陽を浴びてストレッチ。
それから一日を始めます。
不幸せ、妻が目の前にいないからつまらないという気持ちは少なくなりました。
妻は隣の部屋に居て、僕と一緒に一日を送っているのですから。
でも夜は天国のご両親の元へ帰っていきます。
2階で寝てはいませんし、和室にもいなくなります。
だから僕は、自分の部屋に行くとき、和室の妻に「おやすみ」と言って、灯明を消します。
朝までは天国で優しいご両親と眠っているはずです。

そんな境地になっています。
寂しいんですが、これからも耐えられそうな気がします。
何度も言いますが、幸い元気で、呆けてもいないようですから。
老いて、思い出を巡って楽しむ以外に、何の幸せが必要なのでしょうか。

『いつも通りに人生を送り、今までと同じように私の名前を呼んでください。
微笑みを忘れないように。
今までのように。。。』と、ホランドも言ってます。

この本には、そんな、まるで妻が僕に言っているような言葉が並んでいます。
はじめて読んだ時、重く沈みがちになる心が、ふっと軽くなり、
明日から、一人で空を見上げ、町角を見ても、ため息ではなく笑顔になれる気がしました。
でも、やっぱり明るい朝がいいのです。
この本を読むのは。(^^♪

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(穂高)

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プロフィール

穂高

Author:穂高
「わたしのことをいっぱい書いてね。お空の上から読みたいから」と言って虹の橋をひとりで渡って行った妻はまだ64歳でした。これからというときに。憎いのはガン細胞です。
 その後、妻との約束通りエッセイなどを書いて公募へ投稿している74歳の爺ちゃんです。温かく見守って下さい。


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エッセイの主な賞歴
このブログで紹介させていただいた作品は削除していきます。

★第20回高橋手帳大賞 大賞
2016年10月19日。東京・帝国ホテルでの表彰式。今は亡き妻とともに出席した。66歳で初めて書いた短文。
夢を叶える第二の人生はここから始まった。

★第3回橋本五郎文庫賞 入選
★第7回志布志エッセイコンテスト 企業特別賞
★北野財団 第39回懸賞論文 第2席(東京・ホテルオークラに妻と出席)
★第5回藤原正彦エッセイコンクール 優秀賞
★2018、2021年愛顔あふれる感動のエピソードコンテスト入選
★第4回生命を見つめるフォト&エッセー 審査員特別賞
★第5回徒然草エッセイ大賞 優秀賞
★2021年四国新聞 読者随筆 年間最優秀賞
★第35回「働くって何だろう」エッセイコンテスト 勤労青少年躍進会理事長賞
★第19回下田歌子賞佳作、第20回優秀賞、第21回佳作 (3年連続入賞)
★第29回 随筆春秋賞 入選、同時に2024年1月、同人誌随筆春秋の会員となる
★第1回美郷文芸エッセイ賞 優秀賞
★第20回愛するあなたへの悪口コンテスト

(太字は2024年の賞歴です)

★産経新聞「朝晴れエッセー」2018年以降18回掲載
★四国新聞「読者文芸 随筆」2018年から3年(限定)で6回掲載
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